ああ勘違いシリーズ「私殺されました」

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ある日、横須賀から60代の母親と30代の娘が私の評判を聞いてオフィスにやってきた。

主な相談相手は母親で、その内容は荒唐無稽(こうとうむけい)な内容だった。

「多分、アメリカのCIAかなんかだと思うんですが、四六時中(しろくじじゅう)、私の行動を見張って電磁波(でんじは)を浴びせるんですよ!だから、それを防御する為にこうしてゴムのプロテクターをいつもつけているんです(上着を少しめくってゴムのプロテクターだというものを見せる)3回ばかり引っ越したんですが、不動産屋にも手が回っているらしく、引っ越す先々の隣の部屋には、もうCIAの人間らしき人が先回りしているんです・・・(90分中略)・・とにかく何とかならないでしょうか?」

その段階で私は、かなりグッタリした。

でも唯一の救いは、娘だった。
娘は、まともそうだったからだ・・。
 
私は、母親より娘にいろいろ指示を与えて診療が終わった。

2人が帰って、すぐに次のクライアントが訪れた。

次のセッションを始めて、約30分が経った頃、オフィスの固定電話が鳴った。

公衆電話という表示が出ていたのを確認して
「少々すみません」
とクライアントに承諾を得て電話に出た。

相手は、先ほど帰った親娘の娘だった。
 
「もしもし、先ほど伺ったものですが・・一つ質問させて頂いていいですか?」
 
「はい、何でしょう?」
 
私は、母親の対応について聞き忘れた事でもあったのかと思っていたが内容は驚嘆(きょうたん)に値するものだった。

「大滝たもつ先生は、いつお亡くなりになったんですか?」
 
「????亡くなった?・・・えっ?・・さっき生きていたでしょう?・」
 
その言葉に
「貴方は、ニセモノでしょう?本物の大滝先生はいつお亡くなりになったんですか?」
 
「ニセモノ?・・さっきオフィスで写真も見たでしょう?」
 
オフィスには、取材で来院したファイティング原田さんやケント・ギルバートさん、元WINKの鈴木早智子さんと一緒に撮った写真が飾ってあった。
 
「見ましたよ!貴方とは全然、顔が違うじゃないですか!」
 
「(ギョッ)顔が全然違う?」
 
私は、電話の為に待ってくれているクライアントに目で合図して、写真と私の顔を交互に指差しながら小声で、
「写真と全然違う?」
と訊いた。
 
クライアントは、目を見開いて首を大きく横に振って
「エッ?・・どう見ても本人ですよ!」
と言ってくれたので、ひとまず安心した。

再度、受話器に集中すると
 
「では、やっぱり大滝先生は亡くなってしまって、貴方はニセモノだという事でいいですね・・!」
 
という声が聞こえ、その後ろから母親の声が
 
「やっぱり・・やっぱりニセモノなの・・?」
 
という声が聞こえて来て電話は、ガチャと切れた。
 
私は、亡くなってもいないし、ニセモノでもないけれど・・まっいいか・・と思った。
 
よく「ニセモノが現れる様になれば一流だ」という言葉を聞きますが・・・
こういう状況とは全然違うだろう・・と苦笑いした。
 
 





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